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いつまでも子どものままで

「恋するフォーチュン・クッキー」が音楽の楽しみ方を教えてくれる

 昨日久々に会った友人に「ブログを更新しなくなったらぜんぜん近況がわからん」と言われた。そのあとブログの話になって「公開するにせよしないにせよ、常にできあがった文章を書いておくというのは大事なことだ」ということで意見が一致した。さっそく久々にブログを更新。AKB48の新曲「恋するフォーチュン・クッキー」の話。

日本のアイドル版「Get Lucky」

 指原莉乃が総選挙でセンターに選ばれたこと、大規模なエキストラ募集「新曲は音頭」という秋元康の発言などで話題になった「恋するフォーチュン・クッキー」。6月29日TBS「音楽の日」で初公開された日には、特に2chでは微妙な反応だったようだ。
AKB48 新曲「恋するフォーチュンクッキー」初披露の感想&キャプチャ - AKB48まとめんばー
 しかし、僕のTLでは音楽ヲタク兼アイドルヲタクの人々がこの曲を「フィリー・ソウルだ!」などと絶賛されていた。また、Daft Punkが時期をほぼ同じくして電子音から生音のダンスミュージックへの回帰をしたことと重ねるツイートも目立っていた。公開から少し遅れて、休刊した『snoozer』編集長の田中宗一郎や音楽ライターの柴那典も似たようなことをツイートしている。


 ももクロハロプロをはじめ、アイドルの多くがEDM的な楽曲を採用する中、フィリー・ソウル的なオールドファッションへの回帰したという事実は、確かにとても興味深い。これを音楽業界のド真ん中で、意図的に正々堂々とやったのがDaft Punkであるわけだが、この回帰について、cinraではDaft Punkへのインタビューを交えつつ、以下のように書いている。

トーマ:「音楽(ミュージック)」だと思うよ。
ギ=マニュエル:そうだね、「音楽(ミュージック)」だ。
トーマ:いや、たぶん「音楽性(ミュージカリティ)」だ。音楽性……現代の「テクノロジー」と言うと、過去30年間進化してきたレコーディングフォーマット、レコーディングのやり方、専門的な楽器の発達などを意味するけど、どんなに技術が進化しても、音楽性(ミュージカリティ)自体を向上させてはこなかった。まるでテクノロジーが真の音楽性の邪魔をしているかの様に。
そう、デジタルからアナログテープにすることもあれば、コンピューター上でアナログシンセサイザーからバーチャルソフトウェアに切り替えることもある。外観的な小型化技術や利便性の追求が進化して、もちろん素晴らしい音楽は今も沢山あるけれど、1つの時代をとってみると確実に音楽性の割合が顕著で重要視されていた時代があるよね。このアルバムではその音楽性にこだわりたかったんだ。

こうトーマが語っているように、『Random Access Memories』は、間違いなく現代の音楽シーンに対する鋭い批評性を備えた作品である。今さら言うまでもないが、テクノロジーの急速な発達は音楽のあり方を大きく変え、近年ではパソコン1台あれば誰もが一定以上のクオリティーの音楽を作ることができる。それ自体は称賛されるべきことだと思うし、DAFT PUNKもこれまではホームスタジオで作品を作り続けてきたわけだが、ツール頼みになることで、そこに彼らの言う「音楽性(ミュージカリティ)」が備わっていなければ、その背後には平均化・没個性の罠が潜んでいる。かつてのSF映画のように、ロボットが意志をもって人間を支配するという世界が、ある意味現実となりつつあるわけだ。そんな状況に対して、彼らは人間の手による生演奏の魅力を提示する必要性を感じ、そのためには往年の名手の助力を必要としたのだろう。

音楽に感情を取り戻すために DAFT PUNKインタビュー -インタビュー:CINRA.NET

 要するに、Daft Punkが『Randam Access Memories』でやろうとしたのはこういうことだ。音楽のテクノロジーばかり進歩しても、それに伴って音楽性が進歩しなければ、なんら意味はない。
 言ってることは確かに面白い。しかし、僕は彼らの一連の最新楽曲がその批評性に足る豊かな音楽性(彼らの言葉でいえば「ミュージカリティ」)あるとは思えなかった。EDMであふれる現代のチャートに70~80年代的なディスコファンクがあるから魅力的に聴こえるだけのことじゃないか、という思いのほうが強かったのである。

「恋するフォーチュン・クッキー」の偶然の批評性


Daft Punk - Get Lucky (Official Audio) ft. Pharrell ...
 このDaft Punkに関するネガティブな思いは次第に消えていった。『Random Access Memories』いいなと素直に思えるようになった。「恋するフォーチュン・クッキー」が公開されたからである。しかし、「オレが好きなアイドルがDaft Punkと同じことやってる!すげええ!!だからDaft Punkもすげえ!!!」みたいな単純な話ではない。「恋するフォーチュン・クッキー」が公開された後も、当分は「ああ、なんかAKBもDaft Punkみたいなことやってんのねー」くらいの認識でいた。Daft Punk×AKB48で文章を書こうと思っても、そんなにうまく思いつかなかったので、書くのはやめようと思っていたところだった。
 認識がガラッと変わったのは、このMVを見てからである。

恋するフォーチュンクッキー STAFF Ver. / AKB48[公式] - YouTube
 これはAKB48スタッフが「恋するフォーチュン・クッキー」をみんなで踊るというだけの動画である。ちょっと前にVISAでCM出演して話題になったマット・ハーディングさん的なノリを、AKBファンの間では何かとネタにされているスタッフみんながやったら面白いよねというものだ。
 このMVも同様のノリを楽しむことができる。また、昨日の真夏のドームツアーで公開されたPVも、たくさんのエキストラや小橋建太まで一緒にこれを踊るという、似たテイストのものになっているようだ。ほぼほぼ内輪ノリなのだが、見ていると不思議な多幸感があってとてもよい。恥ずかしそうにしてる人も、はっちゃけてる人もいるのだが、みんなどこか笑っているところがいいのだと思う。
 オールドファッションな音楽でも、楽しめればそれはいい音楽である。僕はその真理をDaft Punkではなく、AKB48、というかそのスタッフに見た(大げさ)。

カラオケ・タイアップ・ヲタ芸

 「J-POP」っぽい曲、というのがある。日本の音楽を聴いていると、海外の音楽にはない(いや、ある場合もあるんだけど)不思議さを感じることがある。Aメロ→Bメロ→サビというお決まりのスタイルや、サビでの異様な盛り上がりなんかは、J-POPの「お決まり」と言っていいだろう。そして多くの人がこの定型の中でうまく曲の情緒を表現できたものが「いい曲」とされる。そのような空気が日本の音楽業界にはできあがっているように思う。いわゆる「ロキノン系」と呼ばれる人々でも、洋楽のみを扱う『rockin'on』をメインに読んでいる人と邦楽を扱う『ROCKIN'ON JAPAN』を読む人で持っている空気感が違うのは、こういうところによるものではないだろうか。小文字の『rockin'on』よりも『ROCKIN'ON JAPAN』の方が、「J-POPらしい音楽」(いきものがかり、アイドルなどなど)との親和性は確かに高い気がする。
 この「ROCKIN'ON JAPANらしい音楽」≒「J-POPらしい音楽」は、カラオケ・タイアップ・ヲタ芸、この三種の神器(?)によって文化を醸成してきた(ここに青春バンド系と、クラブを加えてもよい)。だから、これらの音楽は往々にして以下の特徴を兼ね備えてしまう場合が多い。

  1. サビがキャッチーで盛り上がる(CMタイアップに使いやすいように)
  2. メロがしっかりしていて歌声が前面に押し出されている(カラオケで歌いごたえがあるように)
  3. イントロがある場合だいたい泊数が同じ(mixを打ちやすいように)
  4. 泣ける(青春バンド感、泣ける映画のタイアップに使える、ケチャが打てる、などなど)

 で、ここまで延々と書いてきたのだけど、このへんのことをわかりやすく書いているのが先にツイートを引用した柴さんのこの記事。
アジカン「リライト」とAKB48「ヘビーローテーション」から学ぶ、売れるメロディを書くための「たったひとつの冴えたやりかた」【追記あり】 - 日々の音色とことば:
 「サビの盛り上がり」をわかりやすく、しかしそれでいて一部理論的に、書かれている。また、日本の音楽業界がタイアップとカラオケで成長してきたという話は、津田大介,牧村憲一未来型サバイバル音楽論―USTREAM、twitterは何を変えたのか (中公新書ラクレ)』などに詳しい*1

 「恋するフォーチュン・クッキー」は上記のような特徴はあまり見られない。構成こそAメロ→Bメロ→サビといった感じだが、サビがキャッチーであるわけでもないし、カラオケやタイアップで映えるタイプの楽曲ではないだろう。テンポもゆったりしており、mixは打ちづらい。
 しかし、だからダメな曲だというわけではない。フリをマネしてみたり*2、手を叩いてみたり、とりあえずノッてみたり。mixを打たなくても名前を叫ばなくても楽しい楽曲ではないだろうか。確かに売上が落ちる気はするけど、その売上低下を代償に、AKB48が、カラオケでもヲタ芸でもない、音楽の楽しみ方を教えてくれている。

AKB48「恋するフォーチュンクッキー」が良曲になってきた件 - AKB48まとめんばー

 ほら、いい曲に聴こえてきたでしょ?(笑)

Random Access Memories

Random Access Memories

*1:ほかにも詳しい本があるはずなのだが、浅学故この本しか出て来ませんごめんなさい

*2:これは「会いたかった」「ヘビーローテーション」をはじめ、AKB48では既に行われているものだが